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66 木のある風景

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だいぶ明るいのに道路脇の電灯がまだオレンジ色に光っている。川の流れる音がする。猫が爪を研いでいる。新しい筆が届いた。ファン型とか扇型とか呼ばれる形の筆で筆軸の先から毛がビャッと扇状に広がってた形をしている。そういう形だと筆先に含まれる水の量がかなり少なくなるためか、あるいは数本ずつでまとまった筆先がまるで幾本かの細い筆を同時に持っているかのような機能を果たすためか、その筆に絵の具を含ませて紙の上をなでると細い細い何本もの平行線が描かれる。ちょうど栗の木の板の上で猫が眠り始めたので、その筆を使ってちょっと描いてみる。これは便利だ。例えば動物の毛並みを表現するときなんかに使える。画材屋でこういうタイプの筆を見たことはあったけれど手には取ってみないでいた。使ってみるとこれがないともう描けないかもしれない。朝、ナスと椎茸を塩こしょうで焼いただけのごはんを食べる。トイレに行き、二人して2階へ行って着替える。僕はいつもの白い長そでのシャツと緑色の長ズボンにした。ズボンはもともとМのものだったのだけれど、白いペンキが大胆についてしまったので、最近は外へ行く時には僕しか履かない。1階へ降り、廊下に転がっている色々なものを飛び越えながら風呂場前の脱衣所へむかい、皮ベルトを拾い上げる。8時ごろに家を出て、ゆず商品を配達しながら1日中市内のあちこちを運転して回る。車内では満島ひかりのオールナイトニッポンゴールドを聴いていた。これまで、配達の時には音楽を聴いていることが多かったけれど、僕は何かしらの会話というか言葉というかそういうのの方がすきだなと思う。いつもの配達では、朝、僕が配達する商品を用意し、Мがラベルやらその日にやるべきことを確認したりするという分担で準備するのだけれど、その日はその逆で準備したら、ラベルを1種類印刷し忘れて不動滝から事務所までそれを印刷しに戻ったりなんかしていたらだいぶ時間をロスしてしまった。どうも、必要なものを過不足なく抜け漏れなく準備するというのができない。何度も確認したと思っても、するっと何かしらが抜けてしまう。朝、起きると何かが違うと感じた。何が違うのだろう。寝息、寝息、隣で眠る妻の静かな寝息が部屋中に充満している。そこに空腹な猫が割り込んできて、室内の均衡を破る。ふにゃあぁーーーーと長く鳴き朝食を要求する。朝4時半。まだ早すぎるよ、と猫の額を軽くなで、男は布団の上でごろんと回転し、天井を見上げる。時間は早いがもう明るくなり始めている。いつもと同じだ。けどなにかがおかしい気がする。なんだろうか、と考えをめぐらすけれど、男にはそれが何なのかわからなかった。もしかしたら、いつもと違うのは自分自身なのではないかと思い始め、男は寝返りを打ち、布団に入ったまま首をぐるりと回してみる。目をパチパチと開閉してみる。なんだろうか、別に変わったところはない。

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画材:キャンバス、油彩
サイズ:273×220mm
※額縁は付属しません。

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