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129 いつか見た空

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雨が降っている。雷もごろごろと音をたて始めた。警報が鳴る。大雨警報だ。僕は軽バンの運転席に座り携帯でどこかの誰かが書いた短いエッセイを読んでいる。今日は蒸し暑い日だ。日本の夏という感じがする。こんな日に僕はどうしてジャンパーなんて着ているんだろう。僕はこういうめっちゃ暑いところが好きだ。小さい頃からずっと。空気が重たい。息をどんなに深く吸ってもぜんぜん酸素が入ってこないような感じがする。リトルフォレストという映画の中で、湿度の高い夏、縁側から外へ泳ぎ出るというシーンがあったけれど、本当にそんな感じだ。
 今日はこの配達の仕事が終わったら草刈りでもしようかなと思っていたけれど、今日もそれはできなそうだ。早く梅雨が明けてほしいけれど、同時に明けてほしくないような気もするから不思議だ。それはたぶん雨が降ってさえいれば、家から外へ出ていかず家の中に引っ込んでいるのが許されるような気でいられるからだろう。もっとも元々誰も家に引きこもるのを咎めたりなんかはしていないのだけれど。
 また雷が鳴った。猫は元気にしているだろうか。木々の中で何羽かの鳥が囁きあっている。姿は見えない。車の中で僕は待っている。待つということも、僕はけっこう好きな時間の1つだ。駅で、空港で、車のなかで、僕はたぶん人よりもけっこう長く何かを待っていると思う。その時間に何か書き物をしたり、考えを巡らせたりというのはもしかしたら僕の中でかなり充実した時間かもしれない。
 何かを作るということはある意味で何かを待つということに通ずるのかもしれないと思う。何かを産み出したいという気持ちがあったとしても、自分の意志で生み出すことはできないという意識が僕のなかにはあって、何かを作りたい、生み出したい、と思ったときに僕にできるのは、その何かを待つということだけだという気がしている。創作というのは個人の能力を超えた世界のもので、ペンと紙を前にして、その何かが降りてくるのを待つしかないのだと思いながら日々、ペンを握っている。相変わらず雨は降り続き、時折、空は白く光る。
 僕はまだ何かを待っている。

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画材:紙、アクリルガッシュ
サイズ:272×192mm
※額縁は付属しません。

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